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東京高等裁判所 昭和23年(ネ)481号 判決

被控訴人熱田として、仮に控訴人主張の如く控訴人と被控訴人熱田との間に本件物件に関する賣買契約が成立し同契約が手附倍戻しによつて解除にならなかつたとするも、登記並に引渡を請求するには之と同時に残代金の支拂をなすべき義務があるところ、控訴人は被控訴人熱田に対して賣買代金十九万五千円の内僅かに金一万円を支拂つた丈で残額金十八万五千円を支拂はず、然も昭和二十年八月十八日当時と現在とに於ては貨幣價値は著しく変動したから、昭和二十年八月十八日当時の金十八万五千円を、登記並に引渡を求める現在の貨幣價値に換算して、その金額の支拂を受ける迄、同時履行の抗弁として之が登記、引渡を拒む、被控訴人馬場は被控訴人熱田の右抗弁を援用する。

仮に右抗弁が理由がないとしても、被控訴人熱田は少くとも残代金十八万五千円の支拂ある迄本件物件の登記引渡を拒む、被控訴人馬場は被控訴人熱田の右抗弁を援用すると述べ、

控訴代理人に於て、

被控訴代理人の前掲同時履行の抗弁に対し、控訴人と被控訴人熱田との間の本件賣買契約に於ては、その契約書(甲第一号証賣渡証)に、

「残代金は右賣買物件に対し設定しある抵当権を抹消したる上昭和二十年十月三十一日迄に所有権移轉登記を完了すると同時に御支拂相受け可申爲念本賣渡証差入候也」と明記してあるとおり、先づ所有権移轉登記を完了する旨の特約があつて、代金支拂と登記、引渡とが同時履行の関係にないから被控訴人等の同時履行の抗弁は理由がないと述べた外は、すべて原判決の事実に記載してあるとおりであるから之を引用する。

<立証省略>

三、理  由

本件土地建物並に家具什器類(以下本件物件と称する)が元被控訴人熱田の所有に属し從前「竜田」の屋号で待合の営業に使用せられて居たところ、大東亞戰爭の爲め右営業が廃止となり、昭和二十年中本件建物は、被控訴人熱田から船舶運営会へ賃貸せられ右運営会の寮として使用せられて居た事実、並に当時被控訴人熱田は訴外藤山愛一郎から債務を負担し、本件土地建物に対し抵当権が設定せられ之が登記が経由せられて居た事実は孰れも当事者間に爭がない。

而して原審(第一、二回)並に当審証人宇佐美一夫原審並に当審証人水田進の各証言によつて眞正に成立したことが認められる甲第一号証、甲第四号証の一、二、甲第五号証、原審並に当審証人吉田重太郎の証言、原審に於ける被控訴本人熱田の供述により眞正に成立したことが認められる甲第八号証の一、二、(被控訴人熱田に於ては甲第一号証、甲第四号証の一、二、甲第五号証、甲第八号証の一、二、の成立を認める)成立に爭のない甲第十六号証、乙第二号証の一乃至三、乙第七号証、原審(第一、二、回)並に当審証人竹村公良、宇佐美一夫、加藤浜太郎、原審並に当審証人水田進の各証言、原審に於ける被控訴本人熱田、原審並に当審に於ける被控訴本人馬場、控訴会社代表者土屋計左右の各供述(以上の証人、本人代表者の供述中各後段認定に反する部分を除く、以下同様に付省略する、)及び後段説示の被控訴人熱田が金二万円を供託の上賣買契約解除の意思表示をした事実を綜合すれば、被控訴人熱田は昭和十九年の戰爭中から本件物件を空襲による危險と生活の不安定とから賣却せんとして控訴人に交渉したが戰時中の爲め控訴人に熱意がなく價格の折合も付かず賣買は成立しなかつたところ、昭和二十年八月終戰となり控訴人が進駐軍の宿舎の経営をするに及びその営業上本件物件の使用を便宜とするに至り、茲に再び控訴人は被控訴人熱田に対し之が買受を希望し、控訴人側は取締役水田進が被控訴人熱田側は女婿宇佐美一夫が主として代理の上交渉が同月十五日から開始せられたが、双方希望の代金額が容易に一致せず、加うるに本件家具什器類はその後被控訴人熱田から船舶運営会へ賣渡したものがあり、冷藏庫、絨毯等相当な物件が減少して居り之が明細を調査するに時日を要し、又被控訴人熱田としては債権者藤山愛一郎に対する債務を弁済して抵当権の設定登記を抹消しなければならず、之が減額の交渉及び金策に悩み、尚賃借使用中の船舶運営会に対しても賃貸借を解消せしめて本件建物の引渡を受けなければならず、他方控訴人としても終戰後急に始めた進駐軍の宿舎経営の新事業の整備に追われ交渉の進行に手間取つたこと、控訴人としては交渉の初めから本件物件入手の熱意に駆られ被控訴人熱田との間に代金に付幾分の開きもあり、賣買成立迄に多少の迂余曲折のあることを予想はしたものゝ、結局賣買契約は成立に至るものと考え且之が成立を極力希望し、他へ賣却せらるゝことを予防する意図の下に、將來賣買契約成立の曉はその代金の内へ充当せらるべきものとして同年八月十八日金一万円をとりあえず被控訴人熱田に交付して置き、被控訴人熱田亦控訴人の右意図を察知しながら之を受領したこと、同年九月下旬漸く当事者間に本件物件全部に対する代金を金十九万五千円とし、先に交付した金一万円は代金の一部に充当し残額金十八万五千円は被控訴人熱田に於て同年十月三十一日迄に抵当権設定登記を抹消した上直ちに支拂うべきことに協議整い、茲に賣買契約の内容が確定して成立するに至つたこと、但当時之が賣渡証(甲第一号証)を作成するに際しては、特に控訴人の希望によりその日附を遡及して前記一万円の授受の日昭和二十年八月十八日附としたものであつて、賣買契約の内容が確定し成立したのは昭和二十年九月下旬であり、昭和二十年八月十八日に成立したものではないことを夫々認定することが出來る。甲第二号証、甲第十二号証、甲第十三号証の記載内容中、原審(第一、二、回)並に当審証人竹村公良、原審並に当審に於ける証人水田進、控訴会社代表者土屋計左右の各供述中右認定に反し、本件物件の賣買契約が既に昭和二十年八月十八日確定的に成立した旨の部分、原審(第一、二、回)並に当審証人宇佐美一夫の供述中右認定に反し甲第一号証作成の日が昭和二十年十月十七、八日頃である旨の部分、原審(第一、二、回)並に当審証人加藤浜太郎、原審並に当審に於ける証人吉田重太郎被控訴本人馬場の各供述中右認定に反し賣買契約が未だ確定的に成立せず又は賣買の予約の合意が成立したに過ぎなかつたかの如き部分、前顕証人、本人控訴会社代表者、原審に於ける被控訴本人熱田の各供述中右認定に反する部分は孰れも前段認定に供した資料に照して採用し難くその他本件に顕れたすべての資料によつても到底前記認定を覆すことはできない。

次に被控訴人熱田が昭和二十年十一月十四日先に控訴人から受取つた金一万円は解約手附であるとの理由によりその倍額金二万円を供託の上控訴人に対し前記賣買契約を解除する旨の意思を表示したことは当事者間に爭がない。

然しながら前記認定の事実と、金一万円が解約手附であるとすれば代金額十九万五千円に比し通常の取引に於て授受される金額に比し実驗則上少額と認められる点、原審並に当審に於ける証人水田進控訴会社代表者土屋計左右の各供述並に之によつて眞正に成立したことが認められる甲第三号証(被控訴人熱田に於てはその成立を認める)、成立に爭のない甲第十九号証の一、二、によつて認め得るが如くに、控訴人に於ては本件物件が必ずその所有になるものと予定して昭和二十年九月十八日所管官廳に対し本件物件を含めて事業設備新設及び改良許可の申請をなした事実、控訴人が本件建物家具什器類を同年十月十日火災保險に付した事実より考えれば、控訴人は本件賣買契約が解除せられるが如きことは全然予想せず飽く迄も本件物件の所有権を取得し之を確保せんことを期して居たことが窺われる点等より判断すれば、前記一万円は將來賣買契約成立の際に代金の内金に充当する趣旨で前渡したものであつて毫も解約手附として授受せられたものでないこと明白である。原審(第一、二、回)並に当審証人加藤浜太郎、原審に於ける被控訴本人熱田、原審並に当審に於ける被控訴本人馬場の各供述中右認定に反する部分は前記認定に照し到底採用し難くその他被控訴人等の立証によるも右認定を覆し得ない。

然らば右金一万円が解約手附でない以上解約手附である前提の下になされた前記供託並に解除の意思表示によつて前記賣買契約を解除することの出來なかつたことは云う迄もない。

更に昭和二十年十一月十五日本件土地建物について被控訴人熱田から被控訴人馬場に対し賣買による所有権移轉登記の経由せられた事実は当事者間に爭がなく、成立に爭のない乙第八号証の一乃至四、乙第十号証、原審並に当審に於ける証人吉田重太郎、被控訴本人馬場、原審に於ける被控訴本人熱田の供述、並に右供述により眞正に成立したことが認められる乙第四乃至第六号証、乙第十一乃至第十三号証、乙第十五、第十六号証、成立に爭のない甲第十七号証の一並に弁論の全趣旨に照し眞正に成立したものと認める同号証の二、原審(第一、二、回)並に当審証人加藤浜太郎、原審証人小林幸一、今里廣記の各供述を綜合すれば、被控訴人熱田は昭和二十年十一月十三日本件土地建物の抵当権者に抵当債務元利合計十二万二千七百二十一円を支拂つて抵当権を消滅させた上、同月十五日被控訴人馬場に対し本件物件を代金二十七万七千五百円で賣渡し、その頃代金全額が支拂はれ本件土地建物に付ては前記のとおり所有権移轉登記がなされた事実、被控訴人馬場は当時船舶運営会の寮の賄の世話人として本件建物に居住中のところ、被控訴人熱田と船舶運営会との本件建物の賃貸借契約は同年十二月八日限り合意解除となり船舶運営会は同日限り本件建物より退去明渡した結果、被控訴人馬場は同日被控訴人熱田から本件物件全部の現実の引渡を受け之を占有するに至つた事実を各認定することが出來る。

次に被控訴人熱田から被控訴人馬場に対する本件物件の賣買契約が当事者相通じてなした虚僞、仮裝のものであるとの控訴人の主張については、前段挙示の資料を綜合すれば、被控訴人馬場は元その所有の本件建物の隣家で「巽」の屋号の下に待合営業をして居たが、戰時中右建物が強制疎開となり、行先にも困り、偶々本件建物を賃借して寮として使用中の船舶運営会の求めにより、前記認定のとおり、寮の賄の世話人となり本件建物に居住するに至つたが、終戰となり從前の場所に於て旧営業を復活したい念願に燃え、後援者の助力を受け、眞に本件物件の所有権を取得し本件建物に於て営業するの意図の下に、前段認定のとおり、控訴人との間の賣買代金より遙かに高額の代金二十七万七千五百円にて本件物件を買受け現実に代金完済の上本件物件の引渡を受けて直ちに営業開始の準備をして現在その営業に從事するものであり、他に何等かの目的の下に賣買契約を仮裝したものでないことを認めるに十分である。

尤も前顕甲第八号証の一、二、原審に於ける被控訴本人熱田の供述によりその眞正に成立したことが認められる甲第九号証(被控訴人熱田に於てはその成立を認める)前記甲第十七号証の一、二、原審(第一、二回)並に当審証人竹村公良、加藤浜太郎、原審並に当審証人水田進、吉田重太郎、原審に於ける被控訴本人熱田の供述を綜合すれば、被控訴人熱田は昭和二十年十一月中旬控訴人に対し本件建物は被控訴人馬場と共同で待合営業をすることになり他には賣却しない方針であるとの理由で控訴人との賣買契約の解除を申出でた事実、並に同月下旬同様の理由で船舶運営会に対し賃貸借の解除、建物の明渡を求めた事実の夫々存在することが認められ、被控訴人熱田と被控訴人馬場との間の本件物件の前記賣買契約の交渉中又はその成立後に於てこのような事実がある以上、第三者に於ては被控訴人等間の賣買が眞実行はれたか否かにつき疑念を抱くは寧ろ当然ではあるが、前記証人、本人の供述によれば、被控訴人熱田は控訴人との賣買契約成立後抵当債務を弁済すれば代金の余剰僅少となる爲め、成可く控訴人との後日の紛爭を避け円満な了解の下に右賣買契約を解除し、他面賃借人船舶運営会とも同様円滑迅速に任意賃貸借の合意解除の下に本件建物の明渡を受け、之により被控訴人馬場との賣買契約を成可く他よりの苦情もなく可及的速やかに履行せんが爲め考え出した窮余の上の一片の口実に過ぎずして、当時被控訴人等間には共同経営の意図がなかつたことが認められるから、以上の事実により、前記認定を覆して被控訴人間の賣買契約が仮裝であつたものと認めることが出來ない。その他控訴人の立証によるも到底前記認定を覆して、前記賣買契約が当事者相通じてなした虚僞仮裝のものであることを認めしめるに足りない。

されば被控訴人熱田は控訴人に対し本件物件を賣渡し対抗要件である土地、建物に対する登記、家具、什器に対する引渡を経ない内二重に被控訴人馬場に対し本件物件を賣渡した上登記並に現実の引渡を完了したものであり、又控訴人と被控訴人熱田との本件物件の賣買契約に於ては之が所有権が代金完済の時移轉すべき旨の特別の意思表示のなされたことの認むべき資料のない本件に於ては、控訴人と被控訴人熱田との相対関係に於ては、本件物件が特定物なる以上、賣買契約成立と同時に昭和二十年九月下旬本件物件の所有権は被控訴人熱田から控訴人へ移轉したものと認むべく、從て、控訴人は登記、引渡の対抗要件を具備しなくとも、第三者である被控訴人馬場に対しその所有権の取得を以て対抗し得る場合であるか否かを審究するに、

元來第三者に対して登記引渡がなければ対抗出來ない関係があれば、仮令第三者が惡意であつても影響がなく、唯不動産登記法第四條には、「詐欺又は強迫に因りて登記の申請を妨げたる第三者は登記の欠缺を主張することを得ず」と、又同第五條には「他人の爲め登記を申請する義務ある者はその登記の欠缺を主張することを得ず」と夫々定めてあり、この二つの場合には登記がなくても対抗出來る理であるが、右は單に物権の変動を知つて居ると云う丈ではなくて、公序良俗に反する方法で登記引渡を妨げるとか、又は自らその物権変動に関係して利益を得て居るとかの理由で登記、引渡のないことを主張することが著るしく信義に反する場合を規定したものであり、必ずしも嚴格に右法條の文言通りの場合に限定せられず、右法條の法意を汲んで各箇の具体的取引に於て判断すべきところ、原審(第一、二回)並に当審証人加藤浜太郎、原審並に当審証人吉田重太郎、原審証人小林幸一、今里廣記、原審並に当審に於ける被控訴本人馬場、原審に於ける被控訴本人熱田の各供述を綜合すれば被控訴人熱田が本件物件を買受けるに至つたのは同人が船舶運営会の寮の賄の世話人として本件建物に居住中、昭和二十年九月下旬本件物件が他へ賣却せられた風評が寮内に入り、次で同年十月控訴人の社長、取締役等が本件建物の内部を檢分し船舶運営会に対し明渡方の交渉をなしたこと、被控訴人馬場は船舶運営会が本件建物を明渡すに於ては自己の行先にも窮するに至る懸念を生じ、一方前認定の如く自ら同所に於て営業再開の希望もあつたことゝて、同月中旬被控訴人の女婿吉田重太郎を通じて被控訴人熱田に本件物件の買受方を申込んだところ、被控訴人熱田は既に控訴人との間に賣買契約があることを理由にして躊躇はしたものゝ、被控訴人馬場に対して賣渡す方が控訴人に対して賣渡すよりも遙かに代金も高く有利の爲め之を承諾するに至つたこと、その際被控訴人熱田は右吉田重太郎を通じて被控訴人馬場に対し、控訴人との賣買契約は必ずしも確固不動のものではなく單に手附金として一万円を受領して居るに過ぎないから極力交渉の上円満に解消する様努力すべく、若し納れざる場合に於ては手附倍額償還により右賣買契約は一方的に解約し得る旨告げた爲め、被控訴人馬場は之を信じ、代金さえ奮発すれば控訴人との間の賣買契約は容易に解消となり本件物件はその所有に帰し得るものと考え、被控訴人熱田が前段説示の如く昭和二十年十一月十四日金二万円を供託し契約解除の意思表示をなしたのを見て安心し、前段認定のとおり、その翌日被控訴人熱田との間に本件物件の賣買契約を締結した上、代金完済所有権移轉登記が経由せられたものであることを認めることが出來る。

然らば被控訴人馬場は被控訴人熱田と賣買契約締結の際は、既に被控訴人熱田と控訴人との間に本件物件の賣買契約の存して居たことは知つて居たものと認めざるを得ないが、二重の賣買に於て、單に後の賣買に於ける買受人が、前に賣買の事実のあつたことを知つて居た丈では、前の賣買の買受人は後の賣買の買受人を目して、物権変動に関する対抗要件の備はらないことを主張出來る正当の利益を有しない第三者と云うことの出來ないことは、前段説示のとおりであるのみならず、前記認定事実によれば、被控訴人馬場は被控訴人熱田の言葉を信じ、手附金倍戻しによる供託並に解除の意思表示により、控訴人との間の賣買契約は既に解除せられ消滅し控訴人には本件物件について何等の権利がないものと信じた上被控訴人熱田との賣買契約を締結したものと認められるから、被控訴人馬場が本件物件を買受けた行爲を目して著るしく信義に反したものとは到底認め難い。

又前段認定の如くに、被控訴人熱田が被控訴人馬場との賣買契約の交渉中又はその成立後に、控訴人に対し故ら之を秘し、被控訴人馬場と共同して本件建物に於て待合営業をすることとなり何人にも賣却しない方針になつたとの理由で賣買契約の合意解除を申出でた事実は存在するが、右は前段認定により明かな如くに、被控訴人熱田が控訴人との賣買契約を円満に解消せんが爲めの口実に過ぎずして特に控訴人を欺罔してその権利を侵害する意思に出でたものとは考えられず、又被控訴人馬場が右申出に加担共謀して居たことは之を肯認するに足る証拠がなく又被控訴人馬場に於て、控訴人がその賣買契約の爲めの仮登記をなすことを特に妨害した事実、詐欺により控訴人が本件物件の登記引渡を受けることを妨げた事実、被控訴人馬場が不法行爲乃至公序良俗に反する方法で本件物件の控訴人に対する登記、引渡のなされることを妨げた事実は元より、その他被控訴人馬場に於て控訴人に登記、引渡のないことの主張をなさしめることが特に著るしく信義に反するものと認むべき事実の存在することは本件に顕れたすべての資料によるも到底之を肯認することを得ない。

然らば被控訴人馬場は控訴人に対しその所有権の取得について登記、引渡のないことを主張出來る正当な利益を有する第三者であると謂うべく、控訴人は被控訴人馬場に対しては本件物件の所有権を主張出來ない以上、所有権の存在を前提とする控訴人から被控訴人馬場に対する本訴請求は理由がない。

又控訴人に於て本件物件の所有権を被控訴人馬場に対して主張出來ない以上、被控訴人熱田との間の本件物件に対する賣買契約は、被控訴人熱田より被控訴人馬場に対する賣買契約により履行不能に帰したものと認めざるを得ないからその履行を求める控訴人の請求は理由がない。

されば控訴人の本訴請求は孰れも理由がなく、当裁判所とその所見を一にしてその請求を排斥した原判決は相当で本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三百八十四條、第九十五條、第八十九條を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 渡辺葆 浜田潔夫 牛山要)

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